神戸地方裁判所 昭和33年(モ)646号 決定 1958年9月08日
申立人(原告) 正丸教本部 外二名
相手方(被告) 沢田恵美
主文
本件各申立をいずれも棄却する。
申立費用は、申立人等の負担とする。
理由
本件各保証取消決定申立の趣旨と理由は、「申立人等、相手方間の当庁昭和三十三年(モ)第八五号強制執行停止命令申立事件について申立人正丸教本部は、金三万円の保証(神戸地方法務局供託番号昭和三十二年(金)五、五九四号)、申立人辻博は、金千五百円の保証(同五、五九六号)、申立人辻博子は、金千円の保証(同第五、五九五号)を立てたのであるが、その後右強制執行停止命令申立事件の本案訴訟において和解が成立したから、右各保証の取消決定を求めるため、本申立に及んだ。」というのであつて、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。
記録によれば
(イ) 神戸地方裁判所執行吏は、相手方の執行委任を受け、同裁判所昭和三十一年(ワ)第六八一号事件の和解調書の執行力ある正本に基き、昭和三十二年十二月十九日、辻寛治に対する強制執行として別紙目録表示(1) ないし(5) 及び(11)ないし(13)の各物件を、辻トミヱに対する強制執行として同目録表示(6) ないし(10)の各物件をそれぞれ差し押えたこと、
(ロ) しかるに申立人等は、右目録表示(1) ないし(10)の各物件は申立人正丸教本部の所有に属し、(11)及び(12)の各物件は申立人辻博の所有に属し、(13)の物件は申立人辻博子の所有に属すると主張し、共同原告となつて相手方を被告とし右強制執行を許さぬ旨の判決を求め、当庁に昭和三十三年(ワ)第七二号第三者異議訴訟を提起したこと、
(ハ) なお申立人等は、この訴訟の判決言渡まで右強制執行の停止を命ずる仮の処分を当庁に求めたところ、昭和三十三年(モ)第八五号事件として審理があり、当庁の決定額どおり申立人正丸教本部が金三万円(神戸地方法務局供託番号昭和三十二年(金)第五、五九四号)、申立人辻博が金千五百円(同第五、五九六号)、申立人辻博子が金千円(同第五、五九五号)の各保証を立てた上、昭和三十三年一月三十日、右申立どおりの強制執行停止決定を得たこと、
(ニ) その後第三者異議訴訟事件の昭和三十三年四月十五日午前十時の口頭弁論期日において、相手方(被告)は、申立人等(原告等)の請求を棄却するとの判決を求め、前示各差押物件が申立人等の所有に属することを否認していたのであるが、その後なんら証拠調が行われることなく、同年五月二十七日午前十一時の口頭弁論期日において裁判上の和解の成立を見たこと、
(ホ) 右和解の条項は、
a 相手方は、別紙目録記載の各物件が申立人等の主張どおりその所有に属することを認め、右の各物件に対する強制執行の申立を取り下げること、
b 他方申立人三名は、連帯して相手方(反訴を提起していない。)に対し金十八万円を支払う義務があることを認め、これを昭和三十三年六月以降昭和三十四年二月に至るまで毎月末日限り金二万円ずつの割合で分割払するものとし、右分割払を一回でも怠れば、残額につき期限の利益を失い一時に請求を受けても申立人等において異議がないこと、
c 訴訟費用は、各自弁とすること
の三点に尽きること
が認められる。
そこで申立人等は、右和解成立の結果前示強制執行停止決定を得るために各自が立てた各保証につき取消事由が生じたと主張するのであるが、民事訴訟法第五百十三条第三項、第百十五条によれば、強制執行停止決定を得るために立てた保証の取消決定をすることができるのは、保証権利者の同意があつたときと保証の事由が止んだときとに限られるところ、前示和解条項に照らし、本件の事案において保証権利者たる相手方が保証取消に同意したと見られないのはもちろんであるから、問題は、右和解の成立によつて保証の事由が止んだといえるかどうかに帰着する。
おもうに、民事訴訟法第百十五条第一項(同法第五百十三条において準用が認められる場合も含む。)により担保又は保証の事由が止んだものとしてその取消決定をすることができるのは、当該担保又は保証を立てることにより許された仮の処置の結果相手方になんら損害が生じなかつたか、そうでないとしても、その損害が相手方において法律上受忍せざるを得ないものであるか、相手方が右損害の賠償請求権を放棄したか、その他いずれにせよもはや相手方が損害賠償請求権を行使し得ぬことを確認するに足る事情が証明された場合に限るといわなければならない。これを本件のような第三者異議の訴を提起した原告が強制執行停止決定を得るために保証を立てた場合についていうと、原告が強制執行停止決定の正本を執行機関に提出しないままに執行の終了を見たとき、被告が執行停止により受けた損害の賠償を原告に請求しない旨の和解が成立したときなどは、もとより保証の事由が止んだというべきであるが、当該第三者異議訴訟において原告勝訴の判決が確定したときは、多少問題であつて、原則としては積極に解すべきであるけれども、例外的に執行停止の当初は原告の主張が理由がなかつたところ、その後の事情の変更により請求が認容された場合にあつては、右事情変更前における執行停止により被告の受けた損害を無視し去るわけにはゆかないから、当然に担保の事由が止んだものとはいえないであろう。そうして、実はこの例外的の場合とほぼ同様のことが本件の事案についてもいえるのである。
すなわち、本件申立人等、相手方間に成立した前示裁判上の和解においては、前述のとおり差押の対象となつた別紙目録記載の各物件が申立人等の主張どおりその所有に属することが確認されたのであるが、右和解条項は、もとより和解成立当時における物件の所有権の帰属関係を明らかにしたものであつて、既判力も右の限度において生ずるにすぎず、和解成立以前における所有権の帰属は、和解調書自体において格別明示されていないのである。しかも、右和解成立に至る経緯並びに和解条項の他の内容は、前認定のとおりであつて、要するに、相手方は、当初の口頭弁論期日において係争物件が申立人等の所有に属することを否認しておりながら、その後全く証拠調を経ていないにもかかわらず、突如として成立した和解の条項を見ると、相手方は、これらの物件が申立人等の所有に属することを認め、これに対する強制執行の申立を取り下げることを約しており、他方申立人等は、反訴も提起していない相手方に対し、いかなる法律上の原因に基くものかわからないが金十八万円を連帯して支払うことを確約しているのであるから、こうした事情を考え合わせると、前掲各係争物件は、元来執行債務者の責任財産に属しており、これに対する強制執行についてなんら不許の事由がなかつたか、少くとも相手方においてはそのように考えていたにもかかわらず、相手方がおそらくはかなり無理な主張に立脚して第三者異議の訴を提起し、かつ強制執行の一時的停止を得る手段を講じたところ、相手方としても、申立人等から前示金十八万円の支払を確実に受けることで満足し、その代償として係争物件が申立人等の所有に属することを将来に向つて認めることとして、前示のような和解の成立を見たと推認することも、決して根拠のないことではあるまい。はたしてそのとおりとすれば、前記和解成立に至るまでの間の別紙目録記載各物件に対する強制執行が許されぬものであつたと断ずることはできず、したがつて、その執行停止に基く損害が執行債権者たる相手方において当然受忍すべきものであるとはいえないわけであるから、右の損害賠償請求権の担保を維持する必要上、前示執行停止決定を得るために申立人等が立てた本件各保証の事由は、なお継続しているものといわなければならない。
してみれば、右各保証の事由が止んだものとしてその取消決定を求める本件各申立は、いずれも理由のないものであるから、これを棄却することとし、なお、申立費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十三条第一項本文を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 戸根住夫)
目録
(申立人正丸教本部関係の分)
(1) テレビジヨン、アールミーヱー、二十一インチ台付附属共 一台
(2) 三尺位長角重卓 一個
(3) レコードプレヤー、ナシヨナル一七三二 一台
(4) 四尺位鏡台付五抽斗洋服箪笥 一棹
(5) 銅張冷蔵庫 一台
(6) 四尺中開重木三重箪笥 一棹
(7) 四尺中開三重箪笥 一棹
(8) ミシンストーブ片踏台付AA二六〇四七二 一台
(9) 姫鏡台鏡付 一個
(10) 電気洗濯機サンヨー角型 一台
(申立人辻博関係の分)
(11) ラジオ、B×二一〇ナシヨナル五球スーパー一台
(12) 応接セツト 一組
丸高卓 一個
曲木肘掛椅子 二脚
(申立人辻博子関係の分)
(13) 黄銅薄端 一個